クラウンレコードが誇る
遊侠歌手・津田耕次ここにあり
人情味あふれる味わい深いひしゃげた声。マイナーコード。重厚な男のコーラス。心に響くような語り。
津田は関西を中心に活動し、人間味溢れる歌を歌っていた。
歌手生活40年を超えており、たいへん息の長い歌手である。あまり表に出てこないので、世間の評価はどのようであるかは知らないが、この独自のスタイルは評価に値すると私は考える。歌に魂が込められており、抑揚豊かな調子が聴く者をとらえる。
私が津田耕次を知ったのは、94年に買ったイカレたCD「幻の名盤解放歌集『ハートを狙い撃ち』」に収録されていた『お聞き下さい皆様よ』が最初である。軽快な浪曲といった手触りであった。それは1963年12月発表の歌ということだが、初めて聞いた時、その人懐っこい琵琶法師のような甲高いひしゃげた声での歌いっぷりに、新鮮な感動を覚えたものだ。
以来私は、レコードをあさるあらゆる場において、この男津田耕次を気にかけてきたのである。
その甲斐あって、ここに発表できるだけの物が集まった。
河内遊侠伝 クラウン CW-691 1967
A面『河内遊侠伝』はゆったりとしたC#マイナーのシンプルな演奏(クラウンオーケストラ)と「ウーー」という重厚な男のコーラスで始まる。津田が力みながら歌い始めると、2小節ごとに「ふん!」とか「はぁっ」いうコーラスの掛け声が入る。間奏では情感豊かな怒鳴るような語りが聴ける(河内弁か)。東映映画「河内遊侠伝」の主題歌だそうである。どんな映画だったのだろう。
B面『つきぬき小唄』は一転して軽快なナンバー。「つき」と「ぬき」が語尾につき、韻をふんでいる。軽快な拍子にもしわがれ声はよく似合う。
このレコードジャケット裏面には各歌の楽譜がついている(昔のレコードでは標準装備といえる)。楽譜の最初には曲の速さを示す単語が書かれるが、この盤の場合、重厚なA面『河内遊侠伝』では「ゆっくり」となっているが、軽妙な『つきぬき小唄』では「DODONPPA」である。
裸祭り クラウン CW-801 1968
押し殺したような関西なまりの語りで始まるこの歌「裸祭り」は、舞台はどうも東京らしい。「貧乏人も金持ちも裸になりゃあ同じだあ」と歌う。ここで初めて表記されるが、やけに重厚だと感じていた男のコーラスは、クラウン男声合唱団によるものだ。「わっしょい、わっしょい、やぁ!」と気迫を込めて歌を支える。聴き物である。
B面「なにわのどぼんち」は一層コテコテに重厚さを強調した演奏・コーラス・歌声で、「出世しようと思えばできる/バカになるには度胸がいるぜ」といいことを言う。しかし「どぼんち」とはどういう意味なのだろうか。
東海遊侠伝 クラウン CW-860
関西訛りの遊侠歌はついに東海地方に進出した。清水みなとを舞台に「バカがおいらの立看板だ」と決意を表明する。しかし結局酒の力を借りなければ気持が揺れてしまう弱さもさらけ出している。
B面の「男と男と男」はタイトルが凄い。さらにすごいのは、曲名の横に書かれたローマ字の表記である。よく見てほしい。「OTOKO,OTOKO & OTOKO」となっていて、もっとすごい状態になっている。内容的に大いに興味をひくところであるが、タイトルから想像するに3人の男が登場しそうだが、実際は俺とおまえの2人の歌であった(しかも男)。
ジャケットの地の色が赤ばかりなのは、どうしてだろう?
のんき節 クラウン CW-1874 1979
大正時代の流行歌「のんき節」「東京節」である。
津田はこうした昔から伝わる唄に造詣が深く、好んでとりあげる。
ジャケットは、これまでの勇壮な雰囲気から一転して、コミカルなイラストになっている。80年前後に発売された津田のレコードは、(私が所有する範囲において)なぜか写真でなくイラストものが多い。
そのジャケットのイラストを見ていると、学生時代の仲間イチダを思い出す。イチダは91年頃は浴衣マニアだったのである。アルバムをめくっていると、そのものズバリの写真が見つかったので、ここに載せる。偶然ながらもよく似た格好をしていて、なにか不思議な縁を感じてしまう。
「のんき節」ジャケットから飛び出たような男
ギターを弾いて登場! これは酒飲み会の余興で歌の伴奏を務めている姿である。この時は白熱し、弦を3本切り、指から血を流しながら弾いていた。模範的ギターマンである。 |
駅に飛び出た! これは旅に出る仲間をなぜかグリーン車の前で盛大に見送っているところである。夜中の静岡駅であるが、浴衣姿でやり過ぎなのに、変なサングラスをかけ、まったくサービス満点であり、泣ける。ほかのみんなも負けじと存在感をアピールしている。 |
エアロビクスオジさん/えりまきオジさん&DASH
クラウン CWP-51(1984)
謎のユニットえりまきオジさん&DASH。すっとぼけたおっさんがえりまきオジさんで、若者たちがDASHということだろうか。
このえりまきオジさんは、ジャケット裏面の紹介文では「Great
Funky Vocal by Erimaki-Ojisan Who?」となっているが、正体は津田耕治なのである。
この曲は津田耕治のベストアルバム「歌手生活30周年」にしっかり収録されていて、異彩を放っている。
マイケル・ジャクソンの「スリラー」の演奏がそのまんま使われいるが、スリラーをカバーで唄うでなく、あくまで「エアロビクスオジさん」なのである。やる気にない女性コーラスの「1、2、3、4」をバックに、「ハーイ腰を振って、あワンツー、ワンツー」「次は早く回すヨー、ハイOK」などとインチキくさいひしゃげた声でインストラクターのようなリードを熱心にとっているのである。
B面は「そば湯」。謎をそそる不可思議なレコードである。
このえりまきオジさん&DASHはアルバム「えりまきオジさん」を出していたもよう。発見された方や、持っている、あるいは聴いたことがあるという方の感想や情報をお待ちしています。
DASHメンバー:末松譲二(Synth)、小坂元秋(Drums)、渡辺一郎(synth-Bass)
津田耕治 歌手生活30周年 汗と涙の縁歌みち (2枚組) クラウン CRCN-40078〜79 (1992) | ||
Disk 1
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Disk 2
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2枚組で28曲入りの、圧倒的なボリュームである。さすがは30周年。汗と涙の縁歌みち。「ファンが選んだベスト・ヒット」って、これらがベストなヒットなのか? まあとにかく期待は盛り上がる。 重厚な世界が展開するのかと思いきや、1-1からしてビートの打ち込み&シンセサウンド。河内音頭というよりも河内ビートである。しかし1-2では突然壮大な時代劇オペラといった勢いで聴くものを圧倒する。 1-5は恐山イタコの口寄せの実況をとりあげた、いわばドキュメント歌謡であるが、歌ものではなく語りものとなっているが、テーマに対する踏み込みがいまひとつ浅い。1-9ではジャズに挑戦しているが、やや力み気味な独特のスキャットが聞かれる。1-10の伴奏は、マイケルジャクソンの『スリラー』で、変なインチキおじさんがエアロビクスの調子を取って変な踊りやポーズを強要する珍奇なナンバーだ。ダミ声の変なおじさんとしても津田はピッタリこなす。1-11はラップのようだが言葉が暗号めいていてどうやら梵語のようだ。1-12は現代に生きる琵琶法師といった最高の寸劇である。 2-1はリメイクもので、シンプルながらも重厚だった演奏が失われてしまった。リメイクの演奏は、うらぶれた安スナックのカラオケサウンドのようで、タイトルの重さとは釣り合わないのである。 ジャケットの「オリジナル作品集」の表示とは裏腹に、リメイクの曲が多く、その点では裏切られた感じがする。本人が歌っているからオリジナルなのか、本人の持ち歌だからオリジナルなのか、どちらにしても、言葉としてふさわしくないだろう。 まあそうした中にもボーカルと釣り合った演奏もあるし、はまったセリフが決まった心地よいナンバーも数多い。それこそ、津田ワールド! |
津田耕治ホームページ:長年にわたる歌手活動の歴史がわかります。