刑事ドラマもの
西部警察メインテーマ1/ホーネッツ テイチク
RS-208
昭和50年代の土曜日曜の夜のテレビは、子供時代の私にとっては独特のものだった。タイムボカンシリーズで週末ゴールデンタイムが始まり、8時だよ全員集合
!!で最高潮に達する。そしてビューティフル・サンデーを満喫し、日曜の終わりはこの「西部警察」で締めくくられ、現実世界に戻り、宿題に取り掛かるのであった。
「西部警察」は実に痛快なアクション刑事ドラマであった。弾丸が飛び交い、自動車が炎上し、建物が爆破され、犯人は問答無用に射殺される。そのくせ主題曲はメジャーコードで仰々しく、乾ききっている。全くカッコいい。同時期に放映されていた「特捜最前線」の暗さとは対照的だ。
このレコードを聴くと、最近のテレビドラマのスケールの小ささを思い知らされるのである。
ジャケット裏面
このジャケット裏面にはドラマ「西部警察」のストーリー紹介文と曲の楽譜がある。しかしバックが無地ではさびしかったためか、西部署メンバー達が並んだ写真がうすく印刷されている。
どうだこの配置。人物の顔に五線譜がかかっていて、心霊写真というか、モンタージュ合成しそこないというか。なんともこわいじゃないか!
西部警察PART-2 ワンダフル・ガイズ/高橋達也&東京ユニオン テイチク
RE-567
テレビシリーズはパート2に至り、テーマ曲はメジャーコードからマイナーコードに変わった。だからといって、哀愁味を醸し出したわけではなく、いっそう豪快痛快アクション路線を主張している。ゴージャスで威勢のいいトランペット、刻みが心地よいハイハットのせいばかりではない。この曲は始終、ボーン、ボギャーーンといった爆発音や、キュルルルルキヒヒーというタイヤの鳴く音、そして勢いよくクルマがクラッシュする音がかぶせられている。これらの音が、曲の構成要素だと考えると、打ち出すテーマの本気さにただひたすら脱帽である。うーん、すごいぞ。一体何台のクルマが壊れているのだろう。曲の演奏が終わっても昂ぶった気分が収まる間を与えず、即座にクルマの衝突音が入り、徹底的にオチをつけているようで、笑える。
これを聴きながらの悪路・氷雪路の運転は危険この上ないものだ。感情が高まって、現実と虚構が区別なくなってしまう。
エンジンサウンド入り歌謡としては、『ゼッケンNo.1スタートだ(橋幸夫)』『ダイナマイト・ロック(梅宮辰夫)』『一番星ブルース(菅原文太・愛川欽也)『スピード野郎(平尾昌章)』などが知られるが、このレコードの前ではどれもこれもかすんでしまう。サウンド面では無敵のレコードだ。
それにしてもこのジャケットデザインはどうしたものか。CG発達前ということにしても、このコラージュはいささかセンスレスだ。人物と背景の不自然なつながり。輪郭処理もまったく幼稚で、いかにもハサミで切り取りましたという感じ。決定的なダメージは、最も大きく写っている木暮捜査課長(石原裕次郎)がピンボケになっていることである。
裏ジャケットの構成も同様に痛快かつ不自然なので、ここに紹介する。
なんかねー、ホントに写真をジョキジョキ切って並べて、さあこれから効果処理だというところでタイムアウトになっちゃったという感じがする、中途半端なデザイン。
私だけの十字架/F.チリアーノ ポリドール DPQ6048 (1977)
さてテレビ刑事ドラマで「西部警察」と正反対の方向性をもつ「特捜最前線」。表立った派手なアクション主体ではなく、人間性をじっくり描いたドラマで、今なお多くのファンをもっているようである。
レコードジャケットのデザインを見ても、その方向性はうかがえる。オールスター勢揃いで賑やかな「西部警察」と比べると、こちらのジャケットはいかにもさびしい。しかし引き込む力をもつ、よくできたデザインだ。薄い夕日が差す荒地の中、1台の覆面パトカー、ひとり銃を構える二谷英明は足を負傷しているアンバランスなポーズ。この、哀愁感が「特捜最前線」なのである。
この曲はエンディングテーマだった。そのテレビ映像はビルの間に沈む大きな太陽で、とても印象に残っている。物悲しいメロディ、そして歌詞。本編物語がスパッと爽やかに終わらず、どこか重い後味を引きずるような感覚を助長するような、不思議な歌である。ただ、午前中の再放送でこれを見ると、その後の1日がとても暗いものになった。
F.チリアーノ(Fausto Cigliano)はイタリア出身のナポリターナ歌手である。クロード・チアリとよく間違えられるが、それは別人だ。チリアーノの哀愁を漂わせる歌い方はもはや国籍を超えている。絶品。
君は人のために死ねるか/杉良太郎 CBSソニー 06SH
694 (1980)
杉良太郎が活躍する刑事ドラマ「大捜査線」(1980)。杉良が初めて現代劇に挑戦。この歌はその主題歌ということだ。残念ながら私は見たことがない。しかしマグナムを構え、ビシリと決まった杉良太郎。タイトルもズバリ「君は人のために死ねるか」。ストレートな問いかけに私自身戸惑いながら、このレコードを手にした。
聴いてみると、これはスゴイ盤だった。
で終わってしまうのだ。まさに聞き手を無視した独自の世界をマイペースで表現しているといえる。融通のなさが、実に硬派だ。
作詞は杉良太郎本人(探せばweb上で詞があります)。
現在CDシングル発売中!なんでだ?と気になった方はチェック!
杉良が、当時人気だったアリスのような曲をやりたいと、作曲の遠藤実に頼んでできたと言う話を聞いたことがあります。(ADさん 99.7.13)
元々はアリスの「チャンピオン」に、杉良御大がインスパイアされて出来た歌だそうで、そ〜いやイントロのアレンジがどことなく似てるかなと‥‥。(SgMoriさん 99.8.23)
ところで、私が所有するシングルレコード盤「君は人のために死ねるか」は状態が悪くノイズがひどいので、マスター音源としてCDシングルを買い求めることにした(99.10)。店頭になかったため、わざわざ取り寄せたのである。
君は人のために死ねるか/杉良太郎
テイチク TEDA-10386(1997)
パッケージを見ると、なんとこの盤は1997年4月に発売されたということだ。このページができるずっと前の話だ。なぜ当時気がつかなかったのだろう。この盤に対する世のリアクションが小さかったということだろうか。
まあとにかくこれでクリアな音質で独白と歌声が楽しめるぜ、と思っていたのだが、プレイヤーにかけてみてびっくり!アリスの「チャンピオン」をイメージしたという重厚だったイントロはどこへやら。
けたたましいテクノダンス的な打ち込みビートのきいたシンセサウンドなのである。まさにジュリアナMix。中身が違っているかと思ってしまったが、演奏がたどるメロディは確かに「君は人のために死ねるか」である。
チャカポコといそがしいサウンドにのせて、杉の独白は巻き舌をまじえながらダミ声でうなる。「ひっそrrrり〜しんだ〜」。朗々と歌っていた箇所でもここではわざと声をひしゃげさせて力んで歌う。シリアスな凄みがあるというよりは、悪ノリしているのではないかという印象すら受ける。ジャケット写真の穏やかな雰囲気からは想像できない濃厚な世界である。
CDシングルなのでC/Wでカラオケも入っている。そのサウンドにのって、私も巻き舌ダミ声唱法を真似してみたら、思いのほか気分がよかった。それから改めて歌の方を聴いてみると、杉はとても気持ちよさそうに歌っている様子が浮かんでくる。きっとこの歌が気に入っているのだろう。
杉的リラグゼーションの新提案に妙にはまりこんでしまう不思議な一枚。
ってこの盤は刑事ドラマと何の関係もないではないか。