まずはEPレコード



ディスコ体操No.1/アスレチック・ピープル
 キング GK-283(1979)

 見た瞬間に伝わってくる、ジャケットから発せられるある種のパワー。そう。バカレコードなんだこれは。
 このレコードは私が所有するレコードで最も「いかもの」といえる物である。
 この曲は、国民的体操音楽「ラジオ体操第一」をディスコサウンドでアレンジしたものである。サウンドやリズム、その他の雰囲気があいまって、元曲がラジオ体操であることに気づく人は少ない。ビー・ジーズが流行していた頃のもので、ジャケット上隅には「サンデー・モーニング・フィーバー !! '79話題の健康法」とつまらないことが書いてある。
 本物のラジオ体操同様に、号令のナレーションが入っている。ミスター・ケニーなる謎の人物によるものだが、甲高い声でインチキ英語訛りで絶叫する。時折声が裏返ったり、変なリズムをとったりして、ジャケット同様頭が悪そうで、しかしひたむきで、味わい深い。
 展開はやはりラジオ体操第1で、最後は深呼吸で終わる。この時ケニーの呼吸の音がフーハーフーハーと聞こえるのは、あまり爽やかではない。
 実際にこの曲に合わせてラジオ体操をやった者の話を聞くと、とても疲れるそうである。
 教育界では学校の創作ダンスの教材として、この曲が候補に上がることが実際にあるらしい。


Wuper Dancing/パピ ポニーキャニオン 7A0468(1985)

80年代には珍獣ブームがとっかえひっかえ起こっては消えていったものだ。
ウーパールーパーは84年ごろブームになり、水族館や熱帯魚店でモテモテだったのである。
ウーパールーパーは学名をアホ・ロートルという。
サンショウウオなどの両生類は、うまれたての頃は顔の横にエラが生えていて、成長とともに消えるのであるが、アホロートルはエラを残したまま親になる。
このジャケットのイラストでは、トレードマークのエラが頭に生えたツノのような格好になっていて、女の子のほうはリボンをかけたりしているが、生物を理解する上でこれは教育上問題のあるデザインだと思う。
この曲はいかにも80年代といった風情のシンセサウンドのダンサンブルナンバーで、日清のインスタントやきそばのCMに使われた。作詞作曲は尾崎亜美。歌い手はパピということだが、声は尾崎亜美そのもので、彼女のベストアルバムにもこの曲は収録されている。
B面の「パピ語」とは何事かと思ったが、A面そのままの曲で、詞を「ぺぷーぷぱーぽぺぽ」などと、パ行の言葉に全部置き換えて暗号のようにえんえんと歌いつづけるのであった。なかなかつらいナンバーである。さらにその無意味な歌詞が、しっかりと一字たがわず歌詞カードに書かれているのは驚嘆すべき事実である。さすがにパピ語バージョンはベスト盤には収録されていない。

人に歴史あり、という言葉が実感できる怪盤である。



お前にマラリア/沖田浩之 CBSソニー 07SH1374 (1983)

 日本一キテるタイトル!「お前にマラリア」。
 「マラリア」を「お前」にどうするのかというと、これがよくわからない。

 「おまえにマラリア アツアツマラリア」と歌っているから、沖田が「マラリア状態」であることは間違いない。「クラクラ フラフラ 熱病みたいに I Love You」ということで、ジャケット写真の沖田はそういう状態であることがわかる。作詞;売野雅勇。日本唯一の熱病の歌。

 さらに不思議なことは、ジャケットの表題は「お前にマラリア」であるのに、盤面レーベルには「お前にマラリヤ」って書いてある。これもまた、熱病状態。



零心会のズンドコ節/零心会 東芝EMI WTP-17813(1986)

 「ズンドコ節」の元歌は戦時中によく唄われたもので、作曲者不明作詞者不明であり、様々な詞のズンドコ節が存在する。そしてタイトルは「○○のズンドコ節」となる。ザ・ドリフターズ、小林旭、氷川きよしなどが有名であるが、これは零心会というグループのものだ。TVドラマ「ザ・ハングマンV」の主題歌だったそうだ。
 このジャケット写真は白黒がはっきりし過ぎていてハーフトーンがなく、まるでコピー機にかけたような硬い調子であり、デジタルなデザインであるが、実際の演奏もまたピコピコサウンドでデジタルであるし、詞の内容(作詞:中西冬樹)もまた「マジメ人間不眠症 悪い奴ほどよく眠る」「マジメ人間ウサギ小屋 庭付き豪邸悪い奴」など両極端で、全くデジタルであった。いい大人が複数で声を揃えて歌うような内容ではない。
 1986年産のデジタルづくしのズンドコ節である。



股旅'78/橋幸夫 Victor SV-6415 (1978)

 橋幸夫得意の股旅モノのリミックスかニューバージョンか、まあとにかくコテコテの演歌を期待したのは大ハズレであった。
 出だしは寂しげなギター(太陽にほえろのテーマみたい)であるが、さすらいの男の歌なのに、タッタカタッタカという妙に小気味よいリズムを刻む。演奏はビクター・オーケストラ。

何がどうしてこうなった あんまりですぜ おてんとさん ア・・

のあと、

ナイティーンセブンティエエーーイト トオーキョォージャパアーン

というソウルフルな女声コーラスが入り(突然転調している)、英語に切り替わったことに戸惑い、これはディスコ調だったのかと後で驚く。その直後、

カッパ ナガドス サンドガサ  カッパ ナガドス サンドガサ

と早口ことばのようにまくしたて、日本語にもどったのかと裏をかかれ、また1978 TOKYO JAPANを繰り返し、

やけにつっぱる奴が行く

を早口で繰り返すのである。本当になにがどうしてこうなったという気分である。この部分は女性コーラスだけで、橋は歌っていない。
 手拍子を交えた軽快な間奏のあと、橋はまた淡々と2番を歌う。
 展開の読めない急激な構成であり、しかも20年も前に行なわれていたとは、恐れ入るしかない。

 ジャケットのイラストを見ると、三度笠、マント、長脇差の三点セットに、スラックスの格好で、これは現代版の股旅ということだろうか。歌を聴いた後にこの絵を見ると、なるほどとカッコよく見えてしまう。
 「橋幸夫」名前の下のマークは、黒電話じゃなくて股旅マークなのね。



番長シャロック/梅宮辰夫 テイチク A-21(1971)
 1996年、私が住んでいた藤枝には、かのコロッケ屋「梅辰亭」があった。JR藤枝駅南口には、エプロン姿でうつろな顔で微笑む実物大梅辰人形が待ち構えていた。たとえそのエプロンが、本日の特売品のチラシの掲示板にされていても、それはコロッケよりも味わい深い姿だった。
 ガンガンに「番長シャロック」を鳴り響かせて「ふりょうばんちょう〜、お〜れの〜こ〜と〜」と歌いながら梅辰亭に愛車SUBARU LEONEで乗りつけ、コロッケバーガーを買う一部始終をビデオに収めるのが、私の夢だったのだが、あれこれ構想を練っている間に1997年には店はなくなってしまった。若者は思い立ったら即行動に移さなければならない。等身大人形はどこへ行ってしまったのか気がかりである。
 これは映画「不良番長」の主題歌であるが、それにしても不良で番長とはわかりやすい設定である。

梅辰人形

辰ちゃん漬
パッケージより

梅辰キーホルダー

辰ちゃん亭プリクラ
こんな事してていいのか?
 >辰ちゃん、そしてオレ



スーパーカーサウンドシリーズ ランボルギーニ・カウンタック
Dan VA-1005(1977)

 1977年、世は突然の夢のスーパーカー・ブームであった。カード、ケシゴム、プラモデル、下敷きなど、少年たちの身の周りはスーパーカーで固められていた時期があった。しかしそれはまったく一過性のブームであって、次の年にはもうブルートレイン・ブームになっていたのだ。
 それにしてもこんなレコードまであったとは。バカ安だったので買ってみて、家に帰ってターンテーブルに乗せて音を鳴らして、びっくりした。このレコードの構成は特殊で、以下のようになっている。

■SIDE-A:発進音/ドア開閉音 セリフ「おまえは両手を挙げていつものようにオレをむかえてくれるぞ!」/サイドブレーキ/キイ/電磁ポンプ/シフトレバー・ニュートラ点検の音 セリフ「ガスは、いいな」/エンジンスタート/エンジン作動〜2000rpm/ヘッドライト開閉/ウインドウ開閉 セリフ「ヘッドライト、ウインドウ、OK」/クラクション/エンジン作動2000〜6000rpm/セリフ「マシンはいつものように快調!オレのドライビングを待っているぜ!」/走行通過音
■SIDE-B:走行音 (走行を終えエンジンを止めてから)「おまえの力強いレスポンスを、オレは全身で受け止めたぞ!」

 動作の区切り毎に独り言(ちょっと浮かれてる)が入っており、なかなか不気味な盤である。これを聞いた子供はどう感じたのだろう。ブームに浮かされてないで落ち着け、と言いたいところである。


LPレコード


新しき装い/都はるみ
コロムビア AP-7076(1976)

第1面
  1. わかって下さい
  2. 春うらら
  3. 翳りゆく部屋
  4. 弟よ
  5. 旅の宿
  6. 一年草

第2面
  1. シクラメンのかほり
  2. おまえさん
  3. 心もよう
  4. 決心
  5. 想い出まくら
  6. ビューティフル・サンデー

●都はるみが最新ヒット曲に挑戦した聞きごたえ充分のアルバム!

 「新しき装い」と題されたこのアルバムは、都はるみが人知れずニューミュージック・ポップスに挑んだ意欲作である。おそらく「都はるみ全曲集」に収録されていない幻の曲ばかりだろう。本人も周囲も「なかったこと」にしていることだろう。しかし実は、CD発売中である。
 因幡晃、田山雅充、荒井由美、吉田拓郎、井上陽水、小椋佳などのヒット曲のカバー集であるが、はるみ節唱法によりオリジナルの存在を彼方にうっちゃり、ポップスとはいいがたい独自の世界を構築していて、正に「新しき装い」といえよう。録音から20年以上たっているが、今聞いても新鮮というか、なじみにくいというか、不思議なアルバムだ。
 採りあげている曲は紛れもなくポップスなのだが、演奏は演歌のままで、しかも都はるみはコブシにターボをかけている。ユーミンの1-3は完全に都はるみの勝ちで、よくふけあがっていて、翳りゆくどころか燃え上がっている。1-2の「アウー、アウー」、2-6の「すばー、すばー」も聞き逃せないフレーズだ。
 都はるみの歌に対するスタンスがよくわかる一枚である。ひたすら頭をたれて聞くしかない。
 このレコードの帯の裏側には右のような宣伝広告がのっていた。
 好評発売中「演歌ひとすじ
 結局このアルバムの内容においてもなお、都はるみはポップスではなく演歌ですよという意気のあらわれか。内容が形式を超えている、といえよう。


いかものレコード

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